ダウン症の養子をとりたい

米国ではダウン症児を含んで、子どもを養子にしたいという要望がかなりの迫力をもって語られています。
それを支援する活動も盛んです。
さて、日本ではどうでしょうか?

平成27年3月に愛児クリニックに電話がかかってきました。
ダウン症の赤ちゃんを産んで、すっかり育てる気持ちを喪失した女性からで、電話で尋ねたかったことは、だれかダウン症の赤ちゃんを養子にもらってくれる可能性はないかしら、という内容でした。
養子縁組のために駆け巡っている知り合いの産科医を思い浮かべながら、「それはこれから里親を探さないとならないので、即座に返事できないが、時間をくれればなんとか」とか返事をして引き延ばしていた。

同年9月、別の女性から電話がかかってきた。
「ダウン症の赤ちゃんを養子にもらいたいがどこにコネをつけたら良いのか教えて」と言う。
そこで、しばし待ってもらうことにして、件のダウン症児の産み親に連絡をした。
すると今まで乳児院に入れていたが、つい最近になって赤ちゃんを抱いたりできるようになってきて、それなら自分で育てようかな、と考えが変わってきたという。
はい、そうですか、と納得して、里親希望の女性に現況を伝えた。
がっかりした様子であった。

問わず語りで、その方はかなり長い期間不妊外来に通院して、ようやく懐胎に成功したそうだ。
そして生まれた赤ちゃんは重度の心臓奇形を合併しているダウン症児であった。

ほとんどわが子として抱く時間もないままに赤ちゃんは天に召されてしまった。
愛情深く育てようという意欲にかられていた母親としては、何で?という経緯だったそうだ。

だからなおさらダウン症の赤ちゃんと指名して里親として引き受けたいと言う。
人情が交錯して、さまざまな人生が彩られるが、不幸を感じるよりも幸福を感じることが多いのがよいに決まっている。

世の仕組みが少しでも向上するようにお祈りする。(文責 飯沼院長)